今回の記事では、資金上のリスクを管理する手法の一つ、デリバティブ取引を確認していきます。
金融関係のお仕事に携わっている方、企業の資金管理を担当されている方であれば、日常的に触れている内容ばかりかもしれません。
逆に、初めて触れる方にとってはちょっとややこしい内容に感じるかもしれません。
筆者はデリバティブに関する業務経験を持ち合わせていませんので、学習当初は取っ掛かりづらい分野に感じていたというほろ苦い記憶があります(笑)
とは言いつつも、一次試験はもちろん二次試験の筆記、口述のいずれにおいても取り上げられる重要な分野であることは間違いありません。
デリバティブの種類や内容をしっかりとマスターして、中小企業診断士試験を攻略しましょう!
デリバティブって何?
まず初めに、デリバティブの意味や内容について確認していこうと思います。
デリバティブを日本語に訳すと、「金融派生商品」で、株式、債券、通貨といった原資産の価格を基準に価値の取引を行うことになります。
原資産、つまり元となる資産が存在し、そこから派生した金融商品ということになります。
デリバティブの語源となる英語「derived」も派生という意味です。
デリバティブ取引の起源は古く、世界中で現在のデリバティブに類似した取引が頻繁に行われてきました。
江戸時代の大阪堂島の米市場の事例をご紹介しましょう。
堂島の米市場では、米価格を安定させる目的で売買価格を収穫前に決める取引が行われており、そうすることで価格変動のリスクを回避していたわけです。
そのような中、米の値上がりを見越して事前に買い付けたり、値下がりを見越して事前に売り付けたりといった取引自体から利益を得ようとする動きも見受けられるようになりました。
米という原資産の価値取引が行われていたというわけです。
さて、デリバティブの意味を確認したところで、次章からは代表的なデリバティブ取引である「先物取引」、「オプション取引」、「スワップ取引」について、それぞれ確認していきましょう。
【デリバティブの種類①】先物取引ってどんなもの?
さて、まずはデリバティブ取引の代表格ともいえる先物取引について確認していきます。
先物取引とは、上記図1のイメージにあるように、現時点において、将来のある時点での原資産の購入または売却に関する契約を行い、契約で取り決めた将来のある時点において決済・受け渡しを行う形式をとります。
先に紹介した大阪堂島の米市場の取引形態は、まさに江戸時代版の先物取引といえるでしょう。
ただし、堂島の米市場では実際に現物(お米)の取引が行われていましたが、現在の先物取引市場では差金決済のみで完了するケースが一般的であり、現物の受け渡しをすることはほぼなくなっています。
為替先物取引によるリスクヘッジのケースを以下にご紹介しますので、まずはイメージを掴んでいきましょう。
問題
輸出業者A社は2ヶ月後に販売代金をドルで受け取る予定です。A社が為替リスクのヘッジを目的に行うべき取引の形態を考えてみましょう。
解説
A社は2ヶ月後にドルを受け取り、それを円に決済します。この2ヶ月間の為替変動の影響を避けたいわけです。2ヶ月後に受け取るドルを予め売って、円に換えておけば為替リスクを回避できます。よって、「ドル売りの為替予約」を行うのが正解となります。
【デリバティブの種類②】オプション取引ってどんなもの?
続いては、オプション取引です。
オプション取引とは、所定の期日または期間に、原資産をあらかじめ定められた価格で買う(売る)ことができる権利を売買する取引のことです。
オプション取引の特徴は、権利を売買することにあります。
原資産ではなく権利の売買となりますので、損失が生じて不利になると判断した場合には、権利を放棄することで損失を回避できるというメリットがあります。
その一方で、オプション購入時にはオプションプレミアムといわれる手数料を買い手が支払うこととなり、権利行使の有無に関わらず、手数料コストが発生してしまうというデメリットも存在します。
また、権利行使により買うことができる権利をコールオプション、売ることができる権利のことをプットオプションといいます。
以下はコールオプションの買い手サイドの損益図です。
満期日に原資産1単位を権利行使価格150円で買うことができる権利を、オプションプレミアム50円を支払って購入する、という前提で考えていきます。
図で確認できるとおり、原資産価格が200円となったときが損益の分かれ目です。
原資産1単位を150円で購入できますので、その価格にオプションプレミアム50円を足した200円が買い手の支払総額となります。
それより原資産価格が高ければ買い手サイドに利益が発生することになります。
一方、150円を下回った場合でも、損失はオプションプレミアムの50円が上限となります。
買う権利を放棄すれば良いからです。
そうすることで、原資産価格からの損失を回避できるというわけです。
続いて、コールオプションの売り手サイドの損益図も確認していきます。損益図は以下のようになります。
コールオプションの売り手サイドからすると、原資産価格の時価に関係なく150円で売ることになりますから、それに受け取ったオプションプレミアム50円を足した200円という水準が損益の分かれ目となります。
それより原資産価格が高くなっても150円で売る約束を結んでいるわけですから、結果として割安で売ってしまうこととなり、損失が発生します。
さて、コールオプションの買い手と売り手の損益図を確認してきましたが、両者間の比較を通じて押さえるべきポイントがあります。
それはリスクの許容量です。
コールオプションの買い手側は原資産価格の低下により損失が発生しますが、買う権利の放棄により損失をオプションプレミアムの範囲内に抑えることが可能です。
一方、コールオプションの売り手側は原資産価格の上昇により損失が生じるわけですが、その損失の量に上限がありません。
両者の違いを意識することでコールオプションの構造について理解が進みます。
しっかりと押さえておきましょう。
【デリバティブの種類③】スワップ取引ってどんなもの?
さて、最後に確認するデリバティブがスワップ取引です。
構造は至ってシンプルです。上記図2をご覧ください。
固定金利で借り入れているAさんは、金利が下がると予測しています。
固定金利のままでは不利になりますので、借入金の金利を変動金利にしたいと希望しています。
他方で、変動金利で借り入れを行っているBさんは、金利が上がると予測しています。
ですので、当然ながら固定金利に変更したいと考えます。
スワップ取引における金利スワップとは、このように同一通貨における異なった金利(変動金利と固定金利)を交換するために行われる取引となります。
あくまでも金利だけの交換であり、元本の移動は生じない点にご注意ください。
また、異なった通貨間における債権・債務の交換取引は通貨スワップと呼ばれます。
通貨スワップでは金利スワップと異なり、スワップ開始時と終了時に元本交換を行います。
金利スワップ、通貨スワップの意味と元本の取り扱いについて整理しておきましょう。
まとめ
今回は、財務・会計の分野であるデリバティブ取引を確認してきました。
慣れない内は、オプションの損益関係など、一見ややこしく感じてしまいがちな分野であるように思います。
ですが、構造をしっかりと理解すると極めて単純な分野でもあります。
また、筆者の経験上、自分が取引を行っているイメージを持ちながら学習を進めることで、各デリバティブ取引に関する理解が進んだように記憶しています。
範囲が狭い上に、比較的出題されやすい分野です。
デリバティブをしっかりマスターして中小企業診断士試験を攻略してください!