AI、つまり人工知能が我々の生活に身近なものとなってきました。
たとえば、iPhoneのSiriに代表される音声アシスタント機能、お掃除ロボットルンバ、Amazon Echo(アレクサ)等のスマートスピーカー、といったものです。
これらを実際にお使いになられている方も多いのではないでしょうか。
生活の利便性が向上するのは喜ばしいことですが、我々士業(あるいは士業を目指している受験生)にとっては職業上の強力なライバルが出現しているともいわれています。
今回の記事では、士業とAIの関係について最新の情報を調査するとともに、中小企業診断士とAIの関係を深堀りしていきたいと思います。
労働者を脅かす!?AIの恐怖
2015年、オックスフォード大学と野村総合研究所の共同研究で発表されたレポートの内容がなかなかにショッキングなものでした。
研究テーマは「AIやロボットによる代替可能性の高い職業」であり、日本における601種類の職業について、将来的にAIが人間に取って代わる可能性を試算しています。
それによると、日本の労働者の49%(およそ半数!)が10~20年後にAIに代替される可能性が高いとの結論が示されています。
想像してみても、定型的な事務処理を行う一般事務員などについてはAIの方がミスもなく、疲れ知らずで処理を完結してくれるように思えます。
さらに、人感センサーと組み合わせた警備の仕事、自動運転機能の発展による運転士業務、などなど現状において人間が行っている仕事がAIに置き換わるイメージがリアルなものに感じられるのは筆者だけではないでしょう。
ちなみにこのレポートの中で、最もAIに置き換えられる可能性が高い職業とされるのが電車の運転士で、その代替可能性はなんと99.8%とされています。
自動運転による電車の運行が当たり前とされる世の中は、すぐそこまで迫っているのです。
代表的な士業のAI代替可能性を見てみよう!
衝撃!士業のAIによる代替可能性がここまで高いとは!
それでは、気になる士業のAIによる代替可能性を見ていきましょう。
以下の表は、代表的な士業とそのAIによる代替可能性について高い順にまとめたものです。
なお、気になる中小企業診断士の代替可能性は後ほどのお楽しみということで(笑)、診断士以外の士業の代替可能性をみていきましょう。
資格名 | AIによる 代替可能性 |
行政書士 | 93.1% |
税理士 | 92.5% |
弁理士 | 92.1% |
公認会計士 | 85.9% |
社会保険労務士 | 79.7% |
司法書士 | 78.0% |
この表を見て、どのように感じるでしょう?
士業という職業が全体的に非常に高い代替可能性であるという印象を持つのは筆者だけではないと思います。
士業というのは専門性の高い職業という印象がありますが、なぜAIによる代替可能性が高くなってしまうのでしょうか。
それは、各士業の仕事内容を理解することで何となく推測できるのではないでしょうか。
士業のAI代替可能性が高い理由を考察!
士業というのは国が認める国家資格で、国家資格といえば由緒正しく社会的な信頼性が高いというイメージで捉えられる方も多いと思います。
確かにそんなプラスイメージがあることは事実です。
しかし、そこに代替可能性が高まる秘密が隠されていると筆者は考えています。
国家資格である士業制度を創設した背景には、複雑な法制度や行政手続きの存在があります。
その複雑な制度や手続きに関する専門家制度を創設することで、国民の負担を軽減しつつ円滑な制度運営を実現したいということで、国家資格としての士業制度が創設されてきたといえるのではないでしょうか。
つまり、「複雑な法制度のもとで繁雑な手続きを適正に行う」というのが士業の仕事内容といえます。
AIが存在しない時代には、膨大な関連法知識や事務手続きの方法に熟知している士業の専門性は希少なものと言えたでしょう。
しかし、士業の仕事は法制度の枠組みの中で定型的な事務処理を行っているものと捉えると、AIが音声アシスタントによる聞き取りで必要な手続きを選別し、精度の高い書類作成能力を発揮すれば、士業が行っていた手続き業務の代替は十分に可能であるという風にも考えられます。
以上より、複雑な法制度の中にあるとはいえ、定型的な手続き業務だけを行っている士業が将来的にAIに代替される可能性は高いと考えられます。
中小企業診断士とAIによる代替可能性
朗報!中小企業診断士のAI代替可能性は非常に低いんです!
お待ちかね、本記事のテーマである中小企業診断士のAIによる代替可能性を以下の表で確認していきましょう。
資格名 | AIによる 代替可能性 |
弁護士 | 1.4% |
中小企業診断士 | 0.2% |
中小企業診断士に興味をお持ちの皆さんにとって、非常に喜ばしい結果となっているのではないでしょうか。
なんと中小企業診断士のAI代替可能性は驚きの0.2%!ほぼ0%です。
代替不可能といっても良いレベルでしょう。
上記の表によると弁護士も代替可能性が低い士業とされていますが、それでも中小企業診断士の方が圧倒的に低くなっています。
中小企業診断士のAI代替可能性が低い理由を考察!
ひとくくりに士業といっても、AIによる代替可能性が93.1%とされる行政書士と0.2%とされる中小企業診断士といった具合に、あまりにも異なった結果が示されています。この違いはどこから来るのでしょうか。
先の記事で士業のAI代替可能性が高いのは、定型的な手続き・事務処理が主な業務内容となっていることに要因があるという考察を述べましたが、まさに中小企業診断士の業務内容には定型的な手続き・事務処理業務はありません。
もっとも、税務処理代行を務める税理士、登記の代行を務める司法書士、社会保険・労働保険代行を務める社会保険労務士といったように、士業にだけ認められる独占業務が中小企業診断士には認められていないという側面をデメリットとして捉える考えもありますが、AI時代においては独占業務に頼らずに業務を組み立てる思考が大切であることを示しているとも考えられます。
中小企業診断士は、中小企業者に対してその経営資源に関し適切な経営の診断及び経営に関する助言を行うことが主な業務内容とされます。
それぞれの中小企業者の状況に応じた対応が必要不可欠であり、その業務内容は定型的なものにはなり得ませんし、その点こそがAIによる代替がきかない職業とされる理由になっているのではないでしょうか。
また、経営診断・助言を行うにあたっては、経営者の志向や経営理念といったものを把握することも重要。
そこを踏まえていない診断・助言内容では、その企業の方向性が曖昧になってしまい、目標すら定まらない状況に陥ってしまいます。
志向や理念を把握するために必要なのは対話と傾聴であり、それもAIによる代替が難しい作業といえます。
まとめ
現代のテクノロジーの進歩により、生活の利便性は向上しています。
3K(キツイ、キタナイ、キケン)の要素を持った仕事が人間の手から離れるだけにとどまらず、これまで人間が行っていた仕事の多くが、AIやロボットによって完結できる時代を迎える転換期にあるようにも思います。
そのような時代では、多くの士業もAIによる代替可能性が高いと予測されますが、その一方で中小企業診断士は代替可能性が非常に低いものと予測されています。
これからの時代に人間が行うべき仕事というのは、定型的でなく人間同士の対話を通じた理解が求められると考えると、中小企業診断士のAI代替可能性が低い点にも納得できます。
士業の受験者数は減少傾向にありますが、中小企業診断士の受験者数は大幅な増加傾向にあります。
AI社会の到来を感じ、その中で自分の価値を高める必要性を感じている方々が増えており、それが中小企業診断士受験生の増加要因であるようにも思えます。
近い将来に到来するであろう本格的なAI社会を前に、中小企業診断士にチャレンジするというのは非常に有効な選択といえるのではないでしょうか。